昭和の親、平成の先生、令和の子ども ― 不登校をめぐる世代の価値観と心理カウンセリング
はじめに
近年、子どもの不登校は急増しています。文部科学省の調査でも、過去最多を更新し続けており、学校に行かないことは決して珍しいことではなくなりました。しかし、親世代の多くは昭和に育ち、「学校に行くのは当たり前」「嫌でも我慢して続けることが大切」と信じてきました。そのため、子どもが学校に行けなくなると「甘えているのではないか」「そんなことで将来やっていけるのか」と強い不安や怒りを抱いてしまいます。
一方で、平成の先生たちは「個性を尊重したい」という理想と、「成果や学力を求められる現実」との狭間で葛藤を続けてきました。そして令和の子どもたちは、多様性が認められる一方で、SNSなどによる孤独や比較に苦しみながら育っています。
私は心理カウンセラーとして、多くの不登校のお子さんやそのご家族と関わる中で、この「世代ごとの価値観の違い」が大きなすれ違いを生み出していると実感します。本記事では、昭和の親、平成の先生、令和の子ども、それぞれの立場や背景を整理しながら、不登校をどう理解し、親としてどう関わればよいのかを考えていきます。
1.昭和の親 ― 我慢と努力が美徳の時代
昭和の時代、日本は高度経済成長やバブル経済を経験し、とにかく「頑張れば報われる」という考え方が強く根づいていました。親自身も子どものころ、熱があっても学校へ行き、嫌な先生がいても我慢し、部活動でも「根性」を叩き込まれた経験を持っています。
そのため、自分の子どもが「学校に行きたくない」と言うと、「自分の時代はもっと大変だった」「それくらい我慢できないのか」と感じてしまうのです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。昭和の価値観は、当時の社会の中では生き延びるために必要でした。集団に合わせることが重視され、異なる行動をすることは「わがまま」とされました。しかし、令和の今は状況が大きく違います。
現代の子どもたちは情報が溢れる社会で生き、未来は予測困難です。「とにかく我慢すればいい」という時代はすでに終わっています。昭和的な考え方をそのまま子どもに押し付けても、時代のズレから子どもをさらに苦しめてしまうのです。
2.平成の先生 ― 個性尊重と学力競争のはざまで
平成の教育現場は大きな変化の連続でした。「ゆとり教育」の導入で、子ども一人ひとりの個性や自主性を重んじる方針が示されましたが、同時に「学力低下」の批判や受験競争の過熱もありました。
先生たちは「自由にさせたい」「無理をさせたくない」という思いと、「成績を上げなければならない」というプレッシャーの板挟みになってきました。その結果、不登校の子どもにどう関わるかについても現場ごとに温度差が生まれました。
ある先生は「休んでも大丈夫、家庭でゆっくり休ませましょう」と言い、別の先生は「なるべく学校に来させましょう」と言う。親からすると、「どっちを信じればいいの?」と混乱してしまいます。昭和の価値観を持つ親にとって、「行かなくてもいい」という先生の言葉は受け入れがたく、「学校は行くべき」と考える親と「無理はさせない」と考える先生の間に溝ができやすいのです。
3.令和の子ども ― 多様性と孤独のはざまで
令和の子どもたちは、SNSを通じて世界中の人とつながることができます。多様性が尊重され、「自分らしく生きていい」というメッセージも増えました。一見すると、とても自由で恵まれた時代のように見えます。
しかし実際には、多くの子どもが孤独や不安を抱えています。SNSに映し出されるのは、友人の楽しそうな日常や、同世代の成功体験ばかり。自分と比較して「自分はダメだ」と落ち込む子が後を絶ちません。
さらに、社会全体が「正解のない時代」に突入しています。AIやグローバル化で将来の予測は難しく、親が信じてきた「いい学校に入れば安心」という道筋はすでに崩れています。だからこそ子どもたちは、「なぜ学校に行かなければならないのか」という根源的な疑問に直面しているのです。
この背景を理解せずに「とにかく行け」と言ってしまうと、子どもは「自分の気持ちはわかってもらえない」とますます心を閉ざしてしまいます。
4.不登校は「逃げ」ではなく「サイン」
不登校になる子どもたちは、決して怠けているわけではありません。むしろ「心が限界に達しているから、学校に行けない」という状態なのです。
実際、カウンセリングに来る子どもたちは、人間関係に疲れてしまったり、先生からの期待に応えられず自信を失ったり、教室のざわめきが苦痛だったりと、それぞれに深い理由を抱えています。
不登校は「問題」ではなく「サイン」です。子どもがSOSを出しているサインだと受け止めることが、親としての第一歩です。
5.親ができる関わり方
不登校の子どもを前にすると、親御さんは「何とかしなければ」と焦ります。ですが、大切なのは「どうやって学校に戻すか」よりも、「子どもの心をどう守るか」です。
親ができる関わりを整理すると、以下のようになります。
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比較しない
「他の子は行ってるのに」「自分の時代は…」と比べることは、子どもを追い詰めます。 -
家庭を安心の場にする
学校に行けなくても、家が安心できる場所であれば、子どもはエネルギーを取り戻します。 -
小さな一歩を認める
朝起きられた、少し会話ができた、笑顔が見られた。そんな一歩を認めることで自己肯定感が育ちます。 -
専門家のサポートを受ける
カウンセラーや医師、フリースクールなど、外部の支援を活用することも大切です。
6.心理カウンセラーの役割
心理カウンセラーは、親と子どもの間に立ち、「世代の価値観の橋渡し」をする存在です。
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昭和の親の「我慢と努力」
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平成の先生の「個性と成果の葛藤」
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令和の子どもの「多様性と孤独」
これらはどれも否定すべきものではありません。それぞれの時代が大切にしてきたものです。大切なのは、違いを理解し合い、子どもが安心して「自分らしさ」を取り戻せる居場所をつくること。心理カウンセリングはそのための安全な対話の場になります。
まとめ
昭和の親は「我慢と努力」を信じ、平成の先生は「個性と成果」の間で葛藤し、令和の子どもは「多様性と孤独」を抱えて生きています。その価値観の違いが、不登校をめぐって親子に大きなすれ違いを生み出しています。
不登校は「失敗」ではありません。「子どもが自分らしい生き方を模索するためのサイン」です。親御さんがそのサインを受け止め、子どもの気持ちに寄り添うことで、必ず未来は開けていきます。
心理カウンセラーとして、私はこれからも親子が世代を超えて理解し合い、安心できる関係を築けるようにサポートしていきたいと思います。
お知らせ
私が活動している心理カウンセリングサロンLuanaでは、不登校や子育てに悩む親御さんのための個別相談を行っています。また、Luanaは大阪のTKN心理サロンと連携しており、心理カウンセラーの養成や研修を通じて、専門的なサポート体制を整えています。
「子どもの気持ちがわからない」「どう接していいのか迷っている」そんなときは、一人で抱え込まず、ぜひご相談ください。